一般的モデルケースとして、以下を例に説明いたします。
1.遺言書の確認
まず被相続人が遺言書を残しているか否かの確認を行います。遺言書があれば、これに従った処理を行わなければなりません。
(1) 遺言書についての手続き
遺言書が見つかった場合は、その遺言書の種類(自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言等)によって、その後の手続きが異なります。
ア.自筆証書遺言
→ 遺言書の検認手続きへ進みます。
イ.公正証書遺言
→ 相続人の調査・確認へ進みます。
ウ.秘密証書遺言
→ 遺言書の検認手続きへ 進みます。
(2) 遺言書の検認手続き
遺言書の検認とは、偽造や変造の防止を目的に、家庭裁判所で遺言書の存在と内容を確認する手続きです。具体的には、遺言書の保管者若しくは発見者が家庭裁判所へ出向き、相続人立ち合いのもと、遺言書を開封して内容(遺言書の形状、日付、署名など)を確認します。家庭裁判所が遺言書の原本を保管するため、遺言書の書き換えや紛失を防ぐことが出来ます。なお、遺言書の検認は法律で義務付けられており、検認を行わずに遺言を執行してしまうと、5万円以下の過料が発生します。
ア.申し立て
検認手続きは「遺言書を発見した相続人」もしくは「遺言書の保管者」が、以下の必要書類を準備の上、家庭裁判所へ申し立てを行います。
・検認申立書
・遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本等
・法定相続人全員の戸籍謄本等
イ.家庭裁判所から相続人へ検認期日の通知
提出した書類に不備がなければ、相続人全員の自宅へ1ヶ月程度で「検認期日通知書」が送られてきます。通知を受けた相続人が検認に立ち会うかどうかは任意であり、検認に立ち会わなかったからといって、不利益になることはありません。
ウ.検認の実施
申立人は検認日の当日、遺言書/印鑑/検認期日通知書を持参し、家庭裁判所へ行きます。検認に出席した相続人と家庭裁判所の公証人立ち会いのもと、遺言書の開封を行い、書かれている日付/署名/押印/遺言内容等を確認し、その結果を検認調書に記載します。
エ.検認済証明及び遺言書の返還
検認手続き完了後の当日、申立人に「検認済証明書」が添付された遺言書が返却されます。検認済証明書には「この遺言書はxx年xx月xx日に検認されたことを証明する」という文言が記載されており、これで検認完了となります。
2.相続人の調査・確認
遺言書が存在しない場合や分割方法が決まらない相続財産が存在する場合には、法定相続人が協議して遺産分割の方法を合意により決定する必要があります。そのためには誰が相続人かを確定させなければなりません。法定相続人となる者の全員が揃わない状態での遺産分割協議は無効となりますので、十分な調査が必要です。
(1) 相続人の調査~確定方法
相続人の調査・確定の方法は、被相続人の死亡から出生までのすべての戸籍謄本を集め、被相続人の子、両親、兄弟というように相続人の候補となる者を確定していきます。この過程で、本来相続人となるべき者の戸籍も取得し、その人物が既に死亡していればその者の相続人を更に特定することで相続人の範囲を確定していきます。
戸籍謄本を取得する作業の具体的な方法は以下の通りです。
・被相続人の最新の戸籍(出生から死亡までが書かれている戸籍)を本籍のある役所で取得する。
・取得した戸籍より古い戸籍がある場合はその戸籍を取得し、被相続人が出生した記載がある戸籍が出てくるまで遡る。
・その戸籍謄本を確認し、法定相続人となる者全員分の出生から死亡までの戸籍謄本を取得する。
相続人が結婚、離婚、養子縁組などにより転籍を繰り返しているような場合は複数箇所で戸籍謄本を申請・取得する必要があります。また、相続人となる者が亡くなっている場合には、同人の相続人についても戸籍を確認する必要が生じますので、戸籍謄本を申請・取得する範囲が更に広がります。 これらの戸籍謄本等はそれぞれ本籍のある役所でしか取得できないため、市外や県外の場合は逐一取り寄せることとなります。
(2) 法定相続情報証明制度の利用
法定相続情報証明制度とは、取得した戸籍謄本一式を法務局に提出して法定相続情報一覧図を発行して貰う制度です。法定相続情報一覧図は相続関係を証明する書類であり、相続などの手続きにあたって戸籍謄本の代わりとして利用できます。法務局にて法定相続情報一覧図を複数枚発行してもらうことで、これまでのように戸籍謄本を何度も準備して提出する手間が無くなりました。
法定相続情報証明制度を利用する際の流れは以下の通りです。
ア.必要書類を集める
・被相続人の戸籍謄本(出生から死亡までの連続した戸籍謄本・除籍謄本)
・被相続人の住民票の除票(被相続人が最後に住んでいた場所がわかる書面)
・相続人の戸籍謄抄本(相続人全員の戸籍謄抄本)
・相続人の代表となって手続きを進める方の本人確認書(運転免許証のコピーなど)
イ.法定相続情報一覧図を作成する
被相続人の戸籍の記載などから相続人の関係図を一覧にした図を作成します。
ウ.申出書を記入して登記所へ提出する
申出書(法務局HPより)を記入し、上記書類とともに登記所へ提出します。
3.相続財産の調査
相続人の範囲を確定するのと同様に、被相続人の財産の確定も重要です。相続財産に含まれる財産は土地・建物などの不動産、貴金属などの動産、預貯金・積立金などの金銭債権、株式・投資信託などの有価証券などあらゆる資産が含まれます。また、相続財産にはプラスの財産だけでなく、借金や住宅ローンなどの負債(マイナスの財産)も含まれます。
4.遺産分割協議
相続人と相続財産が確定したら、相続人全員でどの財産を誰が相続するかを協議の上で決めていきます。遺産分割は全員の合意がなければ成立しませんので、一人でも反対する相続人がいたり、協議に非協力的な相続人がいれば、協議はまとまりません。遺産分割協議に特段の期限はありませんが、出来る限り早めの対応が好ましいです。
5.単純承認・相続放棄・限定承認の選択
遺産分割で被相続人の遺産をどの程度引き継ぐかを決める時、相続人となった人は「単純承認」「限定承認」「相続放棄」のいずれかを選択する必要があります。
(1) 遺産の全てを引き継ぐ単純承認
被相続人が所有していたプラス・マイナスの財産一切をそのまま引き継ぐ方法です。単純承認は特別な手続きは必要無く、3ヶ月の期間内に相続放棄も限定承認もしなかったときに、単純承認したものとみなされます。また、当該期間内でも相続財産を処分したり費消したりすれば、単純承認したものとみなされます。
(2) プラス財産の範囲に限りマイナス財産を引き継ぐ限定承認
限定承認とは、被相続人の財産にプラス財産・マイナス財産が混在する場合に、プラス財産の範囲内に限りマイナス財産を相続するという特別な相続方法です。この相続方法を選択するには、共同相続人全員が限定承認を行う必要があり、実際にはあまり利用されていません。
(3) 一切の財産を受け取らない相続放棄
相続放棄とは、相続人たる資格を放棄することです。家庭裁判所に対して相続放棄の手続きを行うことで相続人から除外され、被相続人のプラス財産もマイナス財産も一切承継しないこととなります。
6.相続税の申告
相続を知った日から10ヶ月以内に申告しなければなりません。相続財産のうち非課税となる範囲(基礎控除の範囲)の計算式は原則「3,000万円+600万円×相続人数」です。税率は10%~55%まであります。詳細は税理士への相談を推奨します(当事務所よりも紹介いたします)。
7.遺産分割協議書の作成
遺産分割協議で話し合いがまとまった後は、その協議内容を「遺産分割協議書」として作成します。書式や書き方に特定の指定はありませんが、不動産であれば対象を特定する(所在、地番、地目、家屋番号)など、いくつかの注意点があります。
8.相続登記
被相続人から相続した不動産について、所有権の移転を登記します。遺言や遺産分割協議により権利関係が確定した時点で、相続登記を速やかに行っておくべきです。