遺言書には普通方式遺言(3種類)と特別方式遺言(2種類。さらにその中に2種類ずつ)の計7通りの形式があります。
特別方式遺言は事故や災害などで身に危険が迫っているときに利用できる形式で、普通方式遺言はそれ以外の通常時の状態で使われる形式です。従って、殆どの場合は普通方式遺言を使うことになります。
以下、それぞれの種類につき解説します。
1.自筆証書遺言
(1) 特長
自筆証書遺言とは、遺言者が紙とペンを使い自筆で遺言書を作成する形式で、特別な手続きが不要な、最も利用しやすい方法です。
遺言者が、遺言全文・日付・氏名を自書し、押印をすることで、遺言としての効力が認めらます。
(2) 自筆証書遺言のメリットとデメリット
自筆証書遺言には特別な手続きは必要ないため、時間と場所を問わず手軽に作成できるのがメリットです。また、遺言書を作成した事実を誰にも伝える必要が無く、他人に遺言内容を知られることもありません。
反面、遺言書を自身で管理する関係上、偽造や隠蔽のリスクがあり、遺言の有効性でトラブルとなる可能性もあります。さらに、遺言書を発見した相続人は家庭裁判所に遺言書を提出して検認手続きをしないといけないため、そのような手間もデメリットとなります。
2.公正証書遺言
(1) 特長
公正証書遺言とは、2人の証人が立ち会いの下、公証人が遺言者から遺言内容を聴き取りながら作成する遺言です。作成した遺言書は公証人役場で保管されます。専門家の元で相続人と確認を取りながら作成するため、確実な遺言書となります。
(2) 公正証書遺言のメリット・デメリット
公証人が作成するので内容的な不備はほぼ生じず、後のトラブル発生時にも強力な証拠能力を有します。また公正役場が保管を行うため偽造・隠蔽の心配もありません。確実に遺言の内容を実現できるのが、公正証書遺言のメリットです。
反面、遺言書を作成する前に公正役場に申請をする必要があり、手続きに手間がかかること、また遺言書作成に公証人への手数料が発生する点がデメリットと言えます。
3.秘密証書遺言
(1) 秘密証書遺言の特長
秘密証書遺言とは、遺言者が自分で用意した遺言書を2人の証人と同行して公正役場に持ち込み、遺言書の存在を保証して貰う形式です。証人と公証人には遺言の内容は公開せず、遺言書があるという事実だけを確実にするのが目的になります。自筆証書遺言と異なり、署名と押印だけ自分で行えば、後の内容はパソコンでの作成などが認められています。
(2) 秘密証書遺言のメリット・デメリット
秘密証書遺言は手続きの際に公証人と証人に内容を公開する必要はないので、誰にも遺言の内容を知られずに遺言の存在だけを認識させることが出来ます。
しかし、誰にも内容を公開しないことから不備があっても指摘して貰えず、最悪、遺言内容が無効になることがありえます。また、手続きが済んだあとは自分で遺言書を保管する必要があるため、紛失・隠蔽のリスクを避けられないことも秘密証書遺言のデメリットです。
4.(参考)特別方式遺言
特別方式遺言は、病気や事故により死が目前まで迫っている状況で活用できる遺言形式です。特別な方式な遺言のため遺言作成より遺言者が6ヵ月生存していた場合、その内容は無効化されます。
危急時遺言と隔絶地遺言の2種類があり、さらにその中での状況に応じて2種の形式があります。
(1) 一般臨終遺言(危急時遺言)
疫病やその他の有事によって目の前に死が迫っている状況で行う遺言形式です。
3人以上の証人のもとで、遺言者が口頭で遺言内容を説明し、それを文章に書き起こすことで遺言としての効力が得られます。ただし、遺言書作成日から20日以内に裁判所に対して確認請求をしないと効力が消滅します。
(2) 難船臨終遺言(危急時遺言)
船の遭難や飛行機の難航などが原因で目の前に死が迫っている状況で行う遺言形式です。証人も含めて周りに死の恐れがある時に利用できます。
2人以上の証人のもとで、遺言者が口頭で遺言内容を説明しそれを文章に書き起こすことで遺言としての効力が得られます。一時臨終遺言と違い20日以内という制限はありませんが、遅滞なく確認請求を受ける必要があります。
(3) 一般隔絶地遺言(隔絶地遺言)
伝染病での隔離病棟治療中や刑務所に服役中など、死は迫っていないが自由に行動をすることができない状況で行う遺言形式です。
一般隔絶地遺言は警察官1人と証人1人以上のもとで、遺言者本人が遺言書を作成します。
(4) 船舶隔絶地遺言(隔絶地遺言)
船舶中で死は迫っていないが、船の中で遺言書を作成したい状況で利用できる遺言形式です。
船長または乗務員1人と証人2人以上のもとで、遺言者本人が遺言書を作成します。