1.概要
民事信託とは、信託の仕組みを利用した、家族への財産管理の委託や遺産を承継させることが出来る制度です。遺言書作成や後見制度の利用に代えて、又はそれらとあわせて利用することで、一層、本人の希望に沿った将来の財産や遺産の管理が可能になります。
2.民事信託の仕組み
民事信託は、家族など信頼出来る人に受託者になって貰い、財産管理を委ねると言うことが基本的な仕組みです。
民事信託の主な登場人物は、委託者・受託者・受益者の3者です。場合によっては信託監督人や受益者代理人なども加わります。
3.民事信託のメリット
(1) 財産管理を信頼出来る人に託することが出来る
自身の財産管理を、自身が信頼する人に託することが出来ます。例えば、自分が元気な間に財産の名義を子どもに移しておき、その財産を自分のために使って欲しい場合、自身を委託者兼受益者、子どもを受託者とする民事信託をしておくことで老後の資産管理を安心して任せることが出来ます。
(2) 二次相続が指定できる
民事信託は、二次相続を想定する場合に有効です。遺言書で指定できるのは「被相続人が亡くなった時の一次相続についてのみ」ですが、民事信託では、配偶者を財産の受益者とし、配偶者が死亡した後は子ではなく孫を受益者とすると言うような仕組みにすることも可能です。遺言書よりも自由度が高く、個々の被相続人や相続人の意向に応じた相続の仕組みを構築出来ることが大きなメリットです。
(3) 配偶者の今後の生活を考慮できる
すでに配偶者の判断能力が無くなっているような場合、自身の死後の配偶者の生活に考慮した信託内容を指定することが出来ます。
例えば、配偶者に財産を相続させることは出来ても既に判断能力がないため、賃貸借契約などの手続きができないというリスクがありますが、家族信託であれば「自分が亡くなったら受益者は妻に変更する」と定めておくことで、自身亡き後は配偶者の生活のために財産を利用して貰うことが可能になります。
(4) 不動産の共有紛争予防に活用できる
共有不動産は共同相続人全員が協力しないと処分することができません。よって、複数の相続人が不動産を共同相続してしまうと、管理や処分で意見の一致が得られず、紛争になることがあります。民事信託では、共有者としての権利や財産的価値は平等のまま、管理/処分権限を共有者の一人に指定しておくことで、このような問題にも対応出来ます。
4.民事信託のデメリット
次に民事信託のデメリットについて解説します。
(1) 受託者の選定が困難な場合がある
民事信託では、財産を適切に管理/処分し、かつ信頼できる方の存在が大きなポイントとなります。この受託者の選定時に「XXは信用出来ない」と言ったトラブルになることや、信頼されて任されたにもかかわらず、その後の管理が不適切で、不満の声が上がりトラブルになる可能性があります。
(2) 節税効果は期待できない
民事信託を行っても、節税効果はありません。受益者となった方が財産を取得するわけではないのに「財産を取得した」とみなされるため、むしろ税制面では受益者の負担が大きくなる場合があります。
(3) 遺留分侵害額請求の対象となる可能性がある
遺留分とは相続人(兄弟姉妹を除く)に最低限保障された相続財産のことで、これを侵害する不平等な分配がされた場合には遺留分侵害額請求という請求手続きが可能です。民事信託の場合でも、遺留分侵害額請求の対象となって、一定額を支払わなければならない可能性があります。
民事信託を利用する際は、契約内容について家族の意思や状況に応じて柔軟に設計する必要があります。場合によっては遺言書や成年後見制度との組み合わせなども検討しつつ、進めることが重要です。